ブラジル・サンパウロでの警察への攻撃 その7 収束
ブラジル・サンパウロ州で、5月12日(金)の夜から始まった、犯罪組織首都第1軍団によるものと思われる一連の警察等の司法機関への襲撃は、今朝16日(朝)には急激に収束に向かった。
州内各地の刑務所での反乱も、昨夜半には鎮圧された。
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昨日は、市内バスの焼き討ちや銀行支店への破壊活動で、住民の足が奪われるなどして、住民の中に不安が広がった。
商店は閉店を早め、住民は帰宅の足を速めた。
昨夜のサンパウロは、静まりかえった。
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ところで、住んでいるものとしては、「それほど」という感じなのだ。
たまたま、拙宅がある地区のすぐ隣のイジェノポリス地区でひと騒動あったので、それだけがこの一連の騒動の中で身近なのものになったのだが、それとてこういう騒動とは関係なく1年に一度や2度は身近に起きるのがサンパウロの生活なのである。
今日も、アンジェリカ大通りの警察署は、厳重警戒態勢を敷いている。
軽機関銃もショットガンも、目の当たりにする。
だが、そういう武器は滅多に見ないということもないのだ。
大体、今度の一連の騒動の現象面だけを追うと、最初は「市民」からは遠かった。
警察への襲撃は、不適切な言い方だが、住民には関係ない。
襲撃犯人ではなくて、亡くなった方は、ほとんどが警察関係の方々なのだ。
暴動や反乱は、あくまでも刑務所や拘置所の塀の中で起きている。
人質は、収容者の家族(週末は家族の訪問日である。)や刑務所職員だ。
バスや銀行の支店が焼かれ始めたのは、月曜日の未明だ。
バスは車庫にあったし、銀行は閉まっていた時間だった。
それで、バス会社は運行を見合わせたりして、住民生活に初めて支障が出たのだ。
その後、午前中にかけて、運行中のバスが襲われて、焼かれた。
乗客を降ろしたあとだ。
更に、ほとんどの事件の現場はサンパウロの市内周辺部の、元々あまり治安の良くない地区で起きていた。
昨日の正午頃に、市内中心部の高級地区イジェノポリス地区で起きたというのは、とても象徴的な意味を持っているである。
この事件で初めて、「市民」が危険を感じたはずだからだ。
ここで言う「市民」とは、庶民ではない人のことだ。
イジェノポリス地区住んでいる人は、ただの人たちではない。
前大統領から企業家、大農場主、ジャーナリストと言った「市民」たちだ。
こういう人たちの発言があって、初めて何かが動く。
不適切な表現かもしれないが、貧民街で多少なにかが起きてもそれは日常茶飯事なのであまり報道もされないが、サンパウロの高級地区で事件が起きたり、そういうところに住むような人が加害者になったり被害者になる事件は、大々的に報ぜられるのだ。
今朝のサンパウロの新聞は、イジェノポリス地区での警察の厳戒態勢の写真を大きく使っている。
ニュース価値があるからだ。
このイジェノポリス地区での事件が、収束に向けてのきっかけになったと思っている。
もしくは、犯罪組織からのなんらかの「サイン」に違いない。
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サンパウロ州の市民警察の警部マルコ・アントニオ・デズグァルドMarco Antônio Desgualdoは、PCCによる攻撃の減少は一味のの幹部との「合意」によるものだと言うことを否定した。
彼は、暴力行為の減少は警察の働きの成果であるとした。
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事件が起き始めた土曜日の昼に、サンパウロ州知事は「犯罪組織と交渉はしない」と明言していた。
そのことが、犯罪組織を刺激して、一段と襲撃が増え、反乱・暴動が燎原の炎のように広がったとも言われている。
昨夜(5月15日)にも、このサンパウロ州知事は一切「合意」することはないと言っている。
何らかの「合意」があったとする報道が多い。
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12日以来の一連の襲撃では、
攻撃に加わった容疑者71人が、警察との交戦で死んだ。
このうち19人は、今日火曜日の朝のことだ。
警察、警備、刑務所職員等では、44人が亡くなった。
5月16日13時30分現在までに、115人の死者が出たことになる。
襲撃は、合計251件で、80台のバスが焼かれている。
115人の容疑者が逮捕され、113の武器が発見された。
80カ所の刑務所や拘置所で反乱が起きて、13人の収容者が死んだ。
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今日のサンパウロは、車も少なく、道路は混んでいないという。
商店も通常通り、営業を始めた。
学校も再開した。
それぞれににとって、それぞれ異なった記憶を残して、
また平常に戻りつつあるようだ。
新しい「秩序」が生まれたのだろう。
これが、「平衡」というのかもしれない。
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Comments
お久しぶりです。今回の事件については、本当にSaoPauloさんの記事がすごく頼りになりました。そして独自の視点、独自の取材、いつもながら素晴らしいと思います。本当にありがとうございます。
私のブログで、この記事をリンクさせていただきました。日本にいる、私の関係者―おそらく、こういうブラジルの姿など想像もできないであろう実家の親たちとか―にも、ぜひ現状を知ってほしくて。
私には書けない(自分が見て、聞いて、経験したことしかかけません…)ので、その分、SaoPauloさんのお力をお借りしたいのです。
それにしても、世界の紛争地域での取材経験がおありなんですね!いつもいつもSaoPauloさんの正体(笑)は気になっていますが、そのような過去をお持ちとは!!驚き&尊敬です…。
これからもよろしくお願いします。
Posted by: caolin | quarta-feira, 17 de maio de 2006 11:12
このニュース、珍しくも日本でもかなりの大ニュースとして扱われました。特に民放がそれなりの時間を割いてあつかったのってほとんど無かったことじゃないかしらん。
なんで、この事件に限ってと思ったら100人以上も戦死者がでたからなんですね…
ここで取り扱われる報道も日本ではまず取り上げないことからも、相当珍奇きわまるケースかも知れません。
しかし、報道の時間に比べては内容はあっさりした物でした。
何て言うか、ああまたかよ、しゃーねえなあ、といったスタンスで。
メイレレス監督の映画以降、悪い意味でブラジル観が出来たようで、サッカー選手や政治家でも死なない限り、何百人死んでも、それがどのような階級であっても同じ扱いを受けそうです。
まあ、それは向こうも同じと思いますけど。
Posted by: さりーと | quarta-feira, 17 de maio de 2006 13:01
>caolin様
自分で見たこと、聞いたこと、経験したことだけで、十分ではないですか。 少なくともそこに嘘がないことは自分が一番知っているはずです。
サンパウロのような大きな街で何が起きているかなどわかりようがありません。
色々な人たちが、ブログに書いていることの総和が限りなく真実に近いのではないでしょうか。
もちろん、日本人だけでは限界はあるし、階層的にも地域的にも偏りもあるのでしょうが、それでも「サンパウロ」を知ってもらうのには、いいことだと思います。
冒険は出来るだけ避けて、楽しくお過ごしになることをお薦めいたします。 正体は何でしょうね。 正体探しが密かにそして、活発に行われれているようで、歩きにくくなりそうです。
Posted by: Sao Paulo | domingo, 21 de maio de 2006 16:07