ブラジルの奴隷制廃止から120年。
5月14日は、ブラジルの奴隷制廃止Abolição da escravaturaから120年目の記念日である。
奴隷制は、1888年に廃止された。
ブラジルは、キューバと並んで、世界でも最も遅く奴隷制を廃止した国である。
米国でのそれが1860年代のリンカーン大統領がきっかけでそして南北戦争を起こしたことは、日本では常識だろうが、ブラジルの奴隷制など知っている人はほとんどいないだろう。
ブラジルの奴隷制の廃止も、一日で成ったわけではない。
数十年にわたる論議と制度の変更の末に、最終的に廃止された。
もともと奴隷貿易をおこなっていた英国からの圧力もあった。
奴隷制の廃止が一つのきっかけで、ブラジルは独立以来の帝政がほどなく終わり、共和制になった。
それだけインパクトがあったことなのだ。
もっとも、奴隷制が廃止されたからといって、元奴隷の境遇が大きく改善されたわけではない。
120年たったいまでも、最底辺にいると言ってもよい。
その理由について語るのは、簡単なことではないので、、またの機会にしたい。
奴隷制の廃止は、日本人移民とも深い関係がある。
奴隷を失った農場主が、代わりの労働力を求めていたというのが、日本人移民の受け入れの理由だ。
その前に、欧州からの移民をすでに受け入れていたのだが、あまりの待遇の悪さに、イタリア政府などがブラジルへの移民を禁止したこともあって、あらたな移民を供給国として、日本を選んだのだ。
奴隷廃止から、わずか20年後のことであるから、
受け入れる農場主の側としては、
奴隷と同様の扱いという頭がまだまだあったはずだ。
ちょうど100年前の日本人の最初移民の人たちは、さぞかし大変だったことだろう。
ただちがうのは、
奴隷は無理やり連れてこられ、文化も言葉も失われたのであるが、移民の人たちにはやむを得ない事情があったとしてもそこには強制はなかったことだ。
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この奴隷制廃止から120年年目の5月14日(水)の夜、
それに関係する一つのイベントに行ってきた。
ブラジルの大歌手の一人ウィルソン・シモナウWilson Simonalの伝記的ドキュメンタリー映画の上映会に行った。
1939年に生まれ、2000年に62歳で亡くなっている。
黒人であった。
1960年代から70年代にかけて、テレビ番組などを通じて、ロベルト・カルロス及び彼に関係の深いジョウヴェンン・グァルダを上回る人気を持っていた。
1970年には、ワールドカップのためにメキシコまで出かけて、ブラジルの第3回目の優勝に立ち会った。
ところが、彼の持っている会社の経理事件に巻き込まれ、さらに当時の軍政の情報組織の情報提供者との疑惑が沸き起こり、テレビからは追放されてしまった。
その後、1994年には、テレビにも復帰したのだが、失意の期間に深酒で痛めた肝臓病のために、2000年に亡くなった。
その後、情報組織との関係などは、正式に否定されている。
この事件は、ブラジルのマスコミが、
なんの明らかな証拠もないのに、
一人の人間をパージした恥ずべきこととして、
記憶されている。
まず、Globo系の黒人のジャーナリストが、この上映会の趣旨などを話した。
その後、白人の監督が出てきて、
撮影の苦労やこの映画を製作するに至る経緯をインタビューに答えるような形で話をした。
映画は、その彼の輝かしい活躍時代の貴重な映像そして関係者の証言映像そして事件に関係した人の証言などで構成されていて、1時間半の上映時間はとても短く思われた。
ブラジル映画に多いくどい演出もなかった。
そして、その映画がおわったあとに、スクリーンが上がり、
映画にも出演していたウィルソン・シモナウの二人の息子の
ウィルソン・シモニーニャWilson Simoninhaとマクス・ヂ・カストロMax de Castroのミニ・コンサートが始まった。
ブラジルには、純粋の黒人は多くない。
多いのは、混血化した人たちである。
ブラジル全体では、約半分が黒人と混血の人たちである。
でも、コンサートなどでは、そのジャンルにも場所にもよるが、白人系の観客が多いのが現実だ。
だが、
この映画の上映会には、
黒人もしくはかなり肌の色の濃い混血の人たちがとても多かった。
8割以上がそうだった。
それも、黒人の中でも、何かリーダー的な人が多かった。
終了後、
出口の警備の人に聞いてみたら、
1000人弱の観客で、
東洋人は2人だけだったと言っていた。
自分だけかと思っていたのだが、もう一人いたわけだ。
このイベントを選び、
そして参加者の一人としてそこにいたことは、
自分にとって、
大きな誇りである。
ブラジルは、本当に良い国になってきている。
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